少し遅い朝、私はコーヒーを淹れる。休日なので子供はまだ起きて来ないし、昨晩遅く帰ってきた夫は久しぶりの我が家で朝寝を楽しんでいる。単身赴任で大阪に赴いてから2度目の自宅への帰宅だ。大阪で使っているのは会社で借りている家具付きのアパート。自宅から持参した物は着替えくらいしかないが、ベッドが寝心地が良くないからと布団だけ送っていた。
夫は前任者と入れ替わりで部屋を使用していたのだが、前任者宛の郵便物が未だに届くと時々こぼしていた。「郵便局に届け出をすれば良いだけなのに」本来なら住所変更など煩雑な手続きが必要なのだが、転勤族である彼らは住所を変更しないことが多い。いちいちやってられないこと、自宅をローンで購入していることも多く、実務的に住所を移したくないということもあるようだ。
コーヒーの香りに身を委ねていると、夫と息子の笑い声が聞こえた。夫が息子にチョッカイを出したのだろう。朝はコーヒーと簡単な食事、これが家族そろっていた時の我が家のルールだった。けれども赴任先で出来合いの食事をしていると家庭料理に郷愁が募るのか、「和食の朝ごはんが食べたい」と昨晩リクエストされたので、これから味噌汁を作り鮭を焼かなければならない。夕食は久しぶりに煮物か何か作るつもりだ。
夫が留守にしていた間に届いていた郵便物をテーブルの隅にそろえておく。DMは処分し、重要そうな郵便物は電話をして伝える作業をしているからそう数は多くはない。味噌汁を作りながら、ふと思う。子供に食べさせるために食事には気を使っていたけれど、夫がいない生活の中で自分の食事もいささかないがしろになっていたことに。食事を作る張り合いをなくしていたことに。今日明日は腕の見せどころだ、味噌汁の味見をしながら私は微笑んだ。息子のためだけにではない、夫と自分のために料理を作ることを楽しんでいる自分を再発見していた