「これから人口減少に転じていく日本にあっては、土地の立地の選定がより重要になってくるに違いないよ」先輩営業マンが出席者の顔を見回しながら語る。私たちの会社では分譲地の開発や販売、事業用地などを取り扱っていた。今日は月に1度の営業会議で、営業や開発に携わる社員が顔をそろえていた。「後ほど資料を用意させるが、政府はそういう状況を見据えてコンパクトシティー構想を描き始めたからな」数人が無言で頷く。そして私もその1人だった。
コンパクトシティー構想の中身について、詳しいことはまだ決められてはいなかった。極端に言えば、高齢化が進行し人口減少が続く日本社会を見据えて、住民にはこのエリアの範囲内で生活してもらおうという線引きをするということだ。当然病院や小売店などの生活に必要な施設はエリア内にそろっていなければならない。もっとも状況をよく承知している自治体で、そのグランドデザインを描くことになるのだろうが。
「だから分譲地用地、事業用地を選ぶにあたっては、そのことも頭の片隅に入れておく必要がある。今後は誰も足を踏み入れそうにない地域については、手を出すことは控えたいと考えている」現在県や自治体にあっては都市計画を策定してそれぞれのエリアを決めているが、それが将来的には大きく影響を受ける可能性もないとは言えないのだ。そうなると、極端に言えば開発された地は長い年月をかけて森や草地に戻っていくということになるのだろうか。
「そこで土地を選定する際には、ぜひ頭の中でパースを描いてみて欲しい。将来的に人が住むのに適した土地か、町全体としてはどうか。徒歩でも買い物や病院に行きやすい土地か」国の政策がまだ明確になってはいない以上、私たちがそれに沿うように動くのには限界がある。それでもやみくもに土を掘り返す時代ではなくなりつつあるのだろう。再開発を含めて動いた方が良さそうだ、私は改めてそう感じたのだ。